M1搭載MacでOWC Thunderbay Flex 8にDecklink mini monitor 4Kを取り付けて使えるかを検証する

M1MacのDavinci ResolveからOWCのThunderbay Flex8という製品のPCIeスロットにDecklinkを差して4K映像をEIZOのCS2740に出力してみました。

OWCって?

OWCと言えばMac向けThunderbolt製品を数多く輩出している歴史ある企業です。MacだとUSBよりThunderboltの方が馴染みがあるので、HUBとしてDock製品は利用されている方も多いのではないでしょうか?

結果から言うとキチンと映りましたが、かなり大変だったので長々とまとめました。

ちなみにFlex8はそこそこ前に発売された製品なのですが、ネット上に販売開始のネットニュース記事は結構あるにもかかわらず、国内のブログ記事は見つかりませんでした。ということでニッチさを大事に記事を開始します。

M1プロセッサ搭載のMac StudioでPCIスロットを使いたい

OWCから出ているThunderbay Flex 8と呼ばれるRaidストレージにはPCIeスロットがあります。これを活用できたら便利だと思いませんか?

Thunderbay Flex 8はRAID環境とPCI拡張スロット環境が同時に手に入る優れもので、RAID構築のストレージにはHDDの他、SATAのSSD、M.2やU.2のSSDまで使えちゃいます。しばらくHDDで運用し、将来的にはSSDを一部に加えて速度面も視野に強化していく育て方もできますね。M.2が使えるので安価に実現できそうです。

これにはカラリストの先駆者がおり、2020年9月のmixinglightの記事では動作しているようです。しかし、これは時期的にIntelプロセッサ搭載のMacで記事が書かれているようです。不安がよぎりました。

M1搭載Macでは大丈夫なのだろうか?

販売元やメーカーにあちこち問い合わせをしてみる

OWC本社とチャットをしたところ動作するしないはカード側のメーカーに聞いてくれという話です。M1で動作するかの回答は曖昧でした。粘り強くOWC本社に別途メールで問い合わせたところ、

ご質問について、Flex 8はM1 Macで使えます。
そして、DecklinkなどのPCIeカードはFlex 8のハーフレングス、シングル幅仕様に合って、補助電源不要、PCIe 3.0 x4 と M1 Mac対応であれば使用可能です。

ご不明な点がございましたら、Decklinkカードのモデルをお知らせください。

と言う話になりました。

では、国内の販売代理店であるところにも見解を伺おうと、同じくアミュレットさんにも質問をしました。

お問い合わせ頂きました製品「OWC ThunderBay Flex 8」につきましては、Apple M1シリーズチップ搭載モデルのMacでもご使用頂くことが可能です。
OWC ThunderBay Flex 8に搭載可能なPCI Expressボードにつきましては、Thunderbolt接続に対応した、ハーフレングス/フルハイト(173mm x 107mm)、1スロット占有までの各種PCI Express 3.0 x16対応ボードとなります。

製品の詳細につきましては、下記の製品ページをご参照ください。
https://www.amulet.co.jp/owc/storage/owc-thunderbay-flex-8/

なお、Blackmagicdesign社のDeckLinkシリーズをご使用される予定とのことですが、上記製品サイズ以外にも以下の点について、ご確認頂きますようお願い致します。

・ご使用予定のDeckLinkシリーズが、Apple M1シリーズチップに対応しているかどうか
・ご使用予定のDeckLinkシリーズが、PCI Express外付け拡張ボックスでの使用に対応しているかどうか

弊社では、DeckLinkシリーズの詳細が分かりかねますため、お手数をお掛け致しますが、DeckLinkシリーズに関する内容につきましては、直接Blackmagicdesign社様へお問い合わせ頂けますようお願い申し上げます。

アミュレットサポート

真っ当な答えです。イーフロンティアさんはどうか。

Thunderbay flex 8 の動作環境は下記となります。

◇Thunderbolt 3 対応ポートを搭載した Mac(Apple M1 シリーズチップ搭載モデルを含む)

※Apple M1 チップ搭載Mac に本製品を経由して接続できる外部モニターは 1 台までです。
  また本製品以外を経由して Apple M1 チップ搭載Macに
  外部モニターが接続されている場合、本製品に接続されたモニターは
  動作しない場合があります。

※Apple M1 Pro チップまたは Apple M1 Max チップおよび 
  Intel プロセッサを搭載した Mac については 2台以上の外部モニターを使用できます。
  使用可能なモニターの最大数はパソコンの仕様に依存します。

イーフロンティアサポート

思ったより的外れの答えとなりましたね。これは正直なところ頼りになりません。気にせず次に進みましょう。

では次にカード側もM1プロセッサ対応かを問い合わせてみました。

DeckLink Mini Monitor 4KはM1シリコン搭載のMacでも認識がされます。

しかし、DeckLinkシリーズのようなPCIeレーンに取り付けて使用する製品は、外付け機器での仕様は推奨外でございます。

お問い合わせの機器でのご使用の際に、不具合などがあった際に対応ができかねる場合がございます。

ブラックマジックデザインサポート

真っ当な回答ですね。一つ安心材料を得ました。M1搭載でもDecklinkの動作は確認済みということです。PCIeスロットがないM1Macは現時点ではこの世に存在していないのにどうやって検証したんだろう?外付け使ったの?という疑問が湧いてきましたが、とりあえず前に進みます。

外付けPCIe拡張デバイスってマイナーなのかも?

外部接続可能なPCIe拡張デバイスはFlex8以外にも確かに存在していました。が、あまり選択肢はありませんね。

私は今後のストレージのことを考えて一体化したFlex8にしました。

(デバイスが増えて分散化して冗長性が増したほうが故障したときには悪くはない考えですが、物理的に増えると今度はデスク周辺スペースや電源の問題も出てきます。)

Decklink Mini Monitor 4KをFlex8に接続してみる

このスロットにBlackMagicDesign社のDecklinkを使ってグレーディング環境を整備してみます。Decklinkには複数の種類がありますが、今回はMacからディスプレイに出力ができるだけのシンプルな「DeckLink Mini Monitor 4K」という機種を使います。接続は4K対応のHDMIケーブルです。

ちなみにディスプレイにはEIZOのCS2740を使います。あらかじめディスプレイはi1Studioという測定器でColorNavigatorを立ち上げて、カラープロファイルを作って色補正まで済ませておきました。

ちなみに「DeckLink Mini Monitor 4K」の仕様はコチラ。

ビデオフォーマット

SDビデオフォーマット

525i59.94 NTSC、625i50 PAL

HDビデオフォーマット

720p50、720p59.94、720p60、
1080p23.98、1080p24、1080p25、1080p29.97、1080p30、1080p50、1080p59.94、1080p60、
1080PsF23.98、1080PsF24、1080PsF25、1080PsF29.97、1080PsF30、
1080i50、1080i59.94、1080i60

Ultra HDビデオフォーマット

2160p23.98、2160p24、2160p25、2160p29.97、2160p30

4K DCIビデオフォーマット

4K DCI 23.98p、4K DCI 24p、4K DCI 25p

2Kビデオフォーマット(SDIのみ)

2K DCI 23.98p、2K DCI 24p、2K DCI 25p
2K DCI 23.98PsF、2K DCI 24PsF、2K DCI F25PsF

SDI規格

SMPTE 259M、SMPTE 292M、SMPTE 296M、SMPTE 372M、SMPTE 425M、SMPTE 2081、ITU-R BT.656 and ITU-R BT.601.

対応SDIメタデータ

RP 188/SMPTE 12M-2、クローズドキャプション

オーディオサンプリング

テレビ標準サンプルレート(48kHz/24bit)

SDI色精度

8/10/12-bit RGB 4:4:4(1080p60までのすべてのフォーマット)、8/10-bit YUV 4:2:2(すべてのフォーマット)

SDIビデオサンプリング

4:4:4、4:2:2

カラースペース

REC 601、REC 709、REC 2020

SDI HDRサポート

HDR静的メタデータパッキング、HLGおよびPQ転送特性

HDMIビデオサンプリング

4:4:4、4:2:2、4:2:0

HDMIコンフィギュレーション

HDMI 2.0aはDeep ColorおよびHDRに対応。接続したディスプレイに自動コンフィギュレーション。

HDMI解像度

接続したデバイスにdot per dotのHD解像度出力

HDMI色精度

最大12-bit(Deep Color)

HDMI HDRサポート

HDR静的メタデータパッキング、HLGおよびPQ転送特性

対応マルチレート

HDMI、SDIビデオインターフェースは、SD/HD/2K/4K間で切換可能

その1)Flex8のセットアップ

Flex8は筐体の背面にPCIeスロットがあり、1個空スロットがあります。ここに接続していきます。一番上はソフトウェアRaidのカードで、一番下(電源側)は電源供給付きのUSB-Cのコネクタが2つ、DisplayPortが1つあります。

Decklink Mini Monitor 4Kを取り出して空いている中段に差してみました。

側面のパネルをネジで閉じてハード側は終了です。あとはThunderbolt4ケーブルでMac本体と繋ぎ、HDMIケーブルをモニターに繋ぐだけです。合計ケーブルは2本ですね。

その2)Decklinkのドライバのセットアップ

ドライバは公式サイトのサポートページからダウンロードしてインストールします。ドライバのインストールが完了すると接続されたPCIeカードをパソコンが一体何者かを理解できるようになるわけです。

ここ数年、毎度お馴染みになったインストール時に引っかかる現象、それはセキュリティです。

これはOSの環境設定「セキュリティとプライバシー」から許可を押せば完了ですね。このセキュリティの鬱陶しさは年々拍車がかかりWindows並みになってきてます。グッと堪えて前に進みます。

Davinci Resolveの環境設定「ビデオとオーディオのI/O」にDecklink Mini Monitor 4Kの文字が現れたら成功です。

その3)Davinci Resolveの設定

デフォルトで4Kのタイムラインに設定してあればモニター出力もスケールも4Kと一致するようになっているはずですが、再生中だけでなく停止中も時折ブラックアウトしてしまう現象に悩まされました。タイムライン解像度をHDに下げると問題は起こらなくなります。

結果

M1プロセッサうんぬんは結局のところ関係ないのかもしれませんが、解決までの道のりはかなり手こずりました。特定までえらい大変でした。

HD解像度では問題ないのに4Kだとブラックアウトしまくるという現象に2週間は費やした計算です。しかしこの記事の後半を読めば、このブログの読者はこの無駄がありません。

設定を疑う

ダビンチリゾルブのプロジェクト設定をとにかく変えました。データレベルをいじったりしました。フルデータレベルとビデオデータレベルを切り替えたりですね。しかしブラックアウトは継続しました。

ケーブルを疑う

お馴染みホーリックの製品です。ウルトラハイスピードHDMI 8K対応の2mケーブルを買いました。HDMI2.1という規格のもの。このケーブルなら48Gbpsで4K120pまで対応です。現時点で一番安かったのを買いました。しかしブラックアウトは継続してしまいました。

電圧を疑う

HDMIの電圧低下を疑って、対策としてとことん調べて買ったのは一番安いHDMI電源。KAUMO HDMI電源供給用 USB電源コードという代物。しかしブラックアウトは改善してませんでした。電源ではないようです。

コンセントを疑う

別の壁からAC電源を引っ張ってみました。電圧の不安定さが影響しているのでは?という不安に駆られてです。実際SSDのマウントが外れる場合に電源タップを変えると安定することがあります。これは整流回路により安定するためです。しかし今回のブラックアウトは止まりませんでした。

UIモニターに切り替えてみる

うちは2019年に購入したiiyamaの2KモニターをUI表示用にしてます。これはDisplayPortとHDMIがあって、通常はMacからHDMIで繋いでいます。これを外してDeckLink Mini Monitor 4KからのHDMI出力を入れてみました。

すると、全くブラックアウトしません!!画面は2K表示ではあるが、信号は4Kのデータ量なのでOWCのPCIeスロットやDecklinkといった送出側には問題がないとわかりました。

CS2740を疑う

ようやくここに行きつきました。モニター側の問題ということか。EIZOの何かがおかしいと踏んだ訳です。ブラックアウトするとたびたびColor Navigator7のエラー表示が気になってました。「ICCプロファイルの設定エラー」という表示です。

ColorNavigator Agent

そこでHDMIの接続を元のCS2740に戻してから、Color Navigator7の設定を開いて色々いじった結果、不安定な原因特定は未だ手探りなので、不安要素をゼロにすべくColorNavigatorAgentを一旦オフにすることにしました。多少ブラックアウトは減ったような気がするけど、未だにブラックアウトです。

管理者設定をする

そこで次にモニターをいじり出しました。EIZOのCS2740モニターの右側の設定ボタンを押すと信号設定が出るのですが、ブラックアウトすると信号が周波数が出たり出なかったりするのです。カラー深度は10ビットに設定していたはずが、12ビットになったり不安定が続きます。ダビンチリゾルブのモニター出力は24フレームにした時には、EIZO CS2740の信号設定の入力が24Hzになってました。ふとマニュアルを見ると4Kの24Hzの場合、リフレッシュレートが30Hzと60Hzが対応していると言ってます。

そこでモニターの一番左ボタンと電源ボタンを長押しして管理者設定画面を呼び出してみると、HDMIのデフォルトの出力は60Hzになっているようでした。Decklinkのビデオ仕様だと30fpsまでなので、ここが60Hzじゃまずいのかなと思い30Hzに落としてみました。そうしたらブラックアウトが少なくなりました。

とはいえ、色調を変えたりすると引き続きブラックアウトをするのでEIZOコンタクトセンターに問い合わせをしました。

本症状は、DeckLink Mini Monitor 4Kからの出力信号の波形が
非常に悪く、モニターが正常に入力信号を認識できないことから
起きている現象と判断いたしました。

本症状につきましては、残念ながらモニター側で回避することは
できず、ColorNavigator Agent機能のオフや、モニターの信号
フォーマット設定等で根本的な回避はできません。

DeckLink Mini Monitor 4Kの信号波形が悪い点につきまして、
当社からBlackmagic Design社に情報提供し、改善を求めていく
所存でございます。

EIZOコンタクトセンターとのメール

回答によると、本記事執筆時点では根本解決は無理ということですね。私の環境ではHDだと安定するので解像度を落として作業してみます。

まとめ

ストレージにPCIeがついたOWCのニッチな製品Thunderbay Flex8にBlackmagicDesign社Decklink Mini Monitor 4Kを取り付けて4K出力する話は成功に終わりました。Thunderboltケーブルのみで外部モニターに出力できるFlex8はMac miniやノート派の拡張にも良さそうですね。8つのストレージデバイスが搭載できるので、HDDだけの運用から将来的にM2.SSDを混ぜたHDD増設に変更する事で速度面を補うこともできそうです。

今の所はストレージを載せないで使っているのでFlex8のファンの音は気にならない程度の静かさですが、もし気になるようならHDMIやThunderboltケーブルを光ケーブルにして遠くに設置するのもいいかもしれません。

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